今さら言うまでもなく、ワイリーのロボ好き人間嫌いマッドサイエンティストぶりは北半球全域にあまねく知れ渡る常識である。
だから、そのワイリーが自らの「最愛の息子」たるロボットたちの前で柄にもなく頬を赤らめながら「隠し子がいる」とのたまった時、ロボットたちの受けた衝撃と動揺は表現のしようもなかった。
「な、あ、あの、その……博士、今なんと」
晴天の霹靂に、鉢から飛び出た金魚のようになすすべなく右往左往する兄弟たちを、どうにかクイックマンが代表する。が、彼のあまりといえばあまりに無力な問いかけはやはり、あまりにも当然に撃墜された。
「なんも何も、聞いたとおりじゃい」
自分史上最高レベルの機密を暴露して重荷を半ば下ろした気なのか、やや開き直った感のある調子でワイリーはひらひらと手を振った。
だが、その半ばを突如放ってよこされた息子たちはたまらない。事態の重さに完全に沈黙してしまった彼らを前に、さすがに少々バツの悪そうな調子でワイリーは付け足した。
「……ま、子供と言うてもロボットじゃが、の」
その途端、間髪いれず冷ややかな問いが飛んだ。
「博士。まさか『また』お忘れになっていた訳じゃないでしょうね」
瞬間、部屋の体感温度が間違いなく五℃は下がった。見れば今の今まで硬直していたロボット全員が、白けた顔でワイリーを見ている。
事態の不利を悟ったワイリーは慌てて、声の主たる息子その二――ロックマン・シャドウをどやしつけた。
「ば、馬っ鹿モン。忘れてなどおらんわい、機会がなかったんじゃ」
が、その声が今ひとつ精彩を欠いていることは傍目にも明らかである。
――ま、前科があるからの、ワシは。
絵に描いたような自滅ぶりに、とりあえずワイリーは頭をぼりぼりとかいた。