崩れた城壁に足を乗せると、足元の森は遥かに続いていた。
うっそうと茂る熱帯雨林。久々に目にするそれは想像以上に広く、また底知れず深く感じられる。
こんなところに自分たちはいたのだ。その思いは感慨より圧倒に近く、彼らにぐっとのしかかった。それほどにたくましく、したたかな命の広がりだった。
――そして、かつては皆がここにいた。
千年の昔に栄華を誇った人々の痕跡は、もはやないに等しい。波間に辛うじて覗く岩のようにぽつぽつと見える遺跡がなければ、そこに文明の存在を信じる者はないだろう。
風にそよぐ木々やら時々は生き物の声やら、音は絶えず聞こえるくせに、その場にはっきりと存在している沈黙が彼らには分かった。
それでも勇を振るって一歩、二歩と歩き出した彼らは、しかし誰からともなく足を止めた。誰もが無言だったが、抱く思いは変わらないはずだった。
――なぜ、自分は生き残ってしまったのだろう。
眼下の樹海は答えてはくれない。それは一切を飲み込み、厳然とそこに存在している。
その前にあって、彼らはただ途方にくれて立ち尽くす小さな影だった。