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:: 第二章 衝突

 ライトナンバーズが駆けつけると現場周辺はすでに封鎖され、ロボットポリスが遠巻きにビルを包囲している。
「あ、来てくれたか」
 車から降りた一同に、コサックナンバーズが駆け寄ってきた。
「お嬢様の行方がわからんのだ、ビルから出たのを見た人もおらんし」
 ダイブマンがいらいらとその辺を歩き回っている。
 近くにいたロボット警官が、ライトナンバーズに手短に説明した。
「ロボットは六番線を通過予定だった臨時の貨物列車内から線路上に現れました。そこからホームに上がって改札を突破し、南連絡通路を通ってこのビルに入りました。途中で食い止めようとしたのですが、建物の外に出さないのが精一杯で……」
「被害は」
「ロボットポリスに八名、負傷者が出ました。いずれも相手の砲撃を受けたもので、重傷です」
「ビルの客はどうなってる」
「連絡通路付近にいた買い物客と店員、三十名ほどが人質になっている模様です」
 一同が絶句したとき、誰かが叫んだ。
「おい、報道にスッパ抜かれてるぞ」
 傍らのモニターを見ると、マイクに取り囲まれるドクター・コサックが映っている。
〈博士、お嬢様が中におられると伺いましたが、連絡はつきましたか〉
〈……いえ、今警察の方に調べていただいているところです。失礼します〉
〈博士、何か一言〉
 コサックナンバーズに低いうめき声が流れた。
(くそ)
 エレキマンは舌打ちしてビルを見上げた。ロールとも連絡がついていない。
「相手の数は」
「じょ、情報を総合すると十体程度と思われますが、正確な数は不明です」
「不明? ロボットなんだろう、そんなことは」
 ボンバーマンが鋭く問い返す。
「いえ……分からないのです。原因は不明ですが、彼らだけセンサーに映らないのです」
「何? そんなことってあるかよ」
 すっと背筋が冷えた気がした。得体の知れないものを垣間見た心地だった。

 *  *  *

(……芳しくありませんわねえ)
 カリンカは、極力音を立てずに深呼吸した。冷静になろうと努めたが、抱えた膝が震える。
 そっと周囲を盗み見た。自分と同じく座り込んだ人がおそらく三十人ほど。
 その周囲に立つ影は、戦闘用ロボットである。
 が、その姿は、彼女が日夜見知った者たちとは遥かに遠く隔たっていた。
 全身の装甲はひどく傷つき、塗装はあちこちが剥がれ落ちている。さらに、ひどい損傷がそこかしこにあった。それも強い打撃による凹み、弾痕と思しい穴、鋭利な刃物によるコード断裂、えぐられたような欠損など、どれもこれも異常な傷だ。
 そして一人の例外もなく、無慈悲だった。
 彼女を含めたここにいる人質はみなたまたま連絡通路周辺にいて捕まったのだが、狩り立てられ方が尋常でなかった。まるで動物か物のように殴られ、引きずられて追い込まれたのだ。その度を越した情け容赦のなさに人質はみな震え上がり、半ば自分から大人しく集まり、じっと座っていた。
 不意に近くで悲鳴があがった。人質たちはびくりと顔を上げる。
 見ると、数名の警備員ロボットが隅に引きずられていく。そのうち一人の手足を戦闘用ロボット二人が押さえ、もう一人……牛のような姿をした大柄なロボットが、その片腕を掴んだ。
 彼女は思わず目を伏せた。嫌な音、身の毛もよだつ絶叫。
 もう一度そっと目を上げると、先ほどの牛型ロボットが警備員の腕を持っていた。
 ――引きちぎったのだ!
 ざあっと血の気が引いていくのが分かった。
 牛型のロボットは、人型のロボット……ロボットにしては珍しく長い髪を持った者に、その腕を差し出した。長い髪のロボットは無造作にそれを受け取って調べ……怪訝そうな顔になった。素早く腕の外装を剥ぎ、次いでコードを一本抜き取り、自分の身体の損傷部分に合わせたが、適合しないのか舌打ちしてそれを捨てた。
 そして彼は苛立ったように、他の戦闘用ロボットに何事かを命じた。たちまち他の警備員ロボットたちが同じように麻酔なしで解体され、容赦なく部品が抜き去られる。そこには一切の仮借もためらいもない。地獄絵図だった。
 歯の根も合わぬ震えが来る。
 と、カリンカの視界をすっと何かがふさいだ。はっと見上げると、ロボットの一人が見下ろしている。
 猫のような姿をした、彼女より幼いくらいの子供型だった。人間にすれば五歳そこそこだろう。
 だが、その表情。
 笑顔もなくあどけなさもなく、冷え冷えとした敵意だけがそこにあった。
 見るな、というのか、彼はぐいと彼女の髪を掴み、乱暴に下を向かせた。
 彼女は逆らわなかった。逆らう気力もなかった。
 およそ幼児のそんな顔ほど、見る者の心をおののかせるものはない。
 ああ、おそろしい。
 ただただそう思った。

 *  *  *

 一同が言葉を失ったそのとき、拡声器の声がわっと響いた。ガッツマンが見上げると、一台の飛行マシンが警察の制止をふりきって降り立つところである。
 その横腹についているマークを、彼は確かに見知っていた。
(……ワイリーマーク!)
 警官隊に混じり、ライトナンバーズもマシンに駆け寄った。
 中から降りてきたロボットに、リングマンがリングブーメランを突きつける。
「どういうことだッ、説明してもらおうか」
「あーもう、そいつを下ろせよ。聞きたいのはこっちだ」
 ロボット……ワイリーナンバーズ・メタルマンは、ぐるりと一同を見回した。
「今さっき臨時ニュースでおかしげな連中がドンパチやってるって聞いて、俺たちも泡喰ってるとこだ。しかも気づいたらウチのせいになっちまってるしよ」
「それじゃ……」
「そうだ。俺たちワイリーナンバーズは関わってねえし、そもそも何も知らねえ。ウチの爺さんもだ。だいたい俺たちが街に手ェ出すときにゃ毎度直前に通達してるだろが。いきなり殴りこんで素人さんを人質なんて物騒な真似、したことあるかよ」
「……じゃ、あいつらは一体」
「さあな。どこのヤンチャ坊主か知らねえが、やらかしてくれたもんだ。見過ごしに出来ねえんで、こうして来たってわけだ」
 メタルマンはビルを見上げた。
 ついでマシンから降りたクイックマンが、すいとエレキマンの横に立った。
「少々業腹だが、そちらが乗り込むならワイリーナンバーズは付き合う。ロックマンはあの爺さんの生き甲斐なんでな、消されたと聞いては捨て置けん」
「……おい、どこで聞いた」
 エレキマンは小声で聞き返した。
「企業秘密だ。……だが、それではナンだからこちらも手の内をひとつ、明かそう。ワイリー博士も、実はひと月前に外出したまま行方不明なのだ」
「なに」
「行き先は言えんが、行ったきり連絡が途絶えた。……つまり博士のいない今、我々ワイリーナンバーズがこのビル占拠事件の汚名をそそぐには、自力でこうして出張ってくるしかなかったというわけでな」
「なるほど、オレたちと手を組んだ方が好都合か」
「そういうことだ。……ただし、博士の件はそちらの中だけの秘密にしてもらう」
「分かっている。ライト・コサックナンバーズ以外には漏らさん」
「感謝する」
 他に聞こえない声でそれだけの会話をすると、エレキマンは全員をぐるりと見渡した。
「ワイリーナンバーズが共闘を申し入れてきた。敵の素性が知れない今、呑んだほうが得策だとオレは思うが、どうだ」

 *  *  *

 この事態に関して、国家安全省と警察は急遽記者会見を開催した。
 それに合わせて各テレビ局は特番を組み、これまでの情報を総合した臨時ニュースをいっせいに伝えた。
 記者会見の場で国家安全省が明らかにしたところによると、現在立てこもっているロボットたちはいずれも第三国から密入国したと思われるロボットで、身柄確保して護送する途中に専用車両から脱走したという。
 そしてこの場で、ロックマンが護衛任務中にロボットに射殺された旨が正式に発表され、報道関係者に大きな衝撃を与えた。
 また国家安全省はロックマン射殺・ビル占拠にかんがみ、このロボットたちをテロリストと断定した。さらにワイリーロボットが本件に無関係であること、彼らが申し出たライト・コサック両ナンバーズとの共闘を今回に限り了承することを明言した。 
 各局はロックマンが死亡したこと、ワイリーナンバーズとライト・コサックナンバーズが手を組んだことをメインの情報に据え、ヒーローの死を悼むとともに、事実上唯一の切り札となったこのタッグに大きな期待を寄せるコメントを相次いで流した。
 警察の記者会見では、ロボットたちの逃走経路と追跡の模様、ビル内での人質の様子が述べられた。
 護送列車からのロボット脱走の一報が国家安全省からもたらされてすぐ、警察は最寄りの○○駅に警官隊を向かわせたという。しかし配備と民間人の避難が間に合わず、混乱状態での立ち回りを余儀なくされた。結果、ロボットたちを建物から出さないことには成功したものの、駅ビルへの侵入を許してしまったという。
 警官に負傷者が出たことについて、ロボットたちの武装状況は国家安全省から伝えられていなかったと、担当者は語った。これに関して国家安全省は、装備や武装は調査前で、把握していなかった旨を述べた。
 そして、一部人質の身元も判明した。ロボット工学の第一人者ドクター・ライトの第二号ロボット・ロールと、同じくロボット工学界の俊英ドクター・コサックの一人娘カリンカがその中に含まれていた。
 また、「テロリストロボット」たちの現時点での情報も大きく伝えられた。
 国家安全省はロボットたちの数を十体前後と推定したが、各メディアの独自取材で、個々の詳細が断片的にしろ少しずつ分かってきた。
 長い髪を持つロボットが一体いるのを、駅にいた複数の客が覚えていた。「ロボットにしちゃ珍しいなあと思って」と、ある乗客は語った。
 ホームから階段を上がった先で大型ロボットがロボットポリスに発砲した瞬間の映像も、警察により公開された。撃たれた警官は頭脳チップこそ無事だったものの、いずれも行動不能なほどの重傷を負ったという。
 改札の外、駅ビルへの連絡通路に至る階段通路を「バーニア(正しくはブースター)でばーっと飛び越え」ていくロボット、「壁だの天井だのを忍者みたいに飛び移って」いく小さなロボットがいたと、居合わせた大勢の客が証言した。
 さらに別の一体は飛びかかったロボットポリスの目の前で液状に溶け、その姿のまま逃走したという。その他、同類と思われる複数の姿が防犯カメラの映像に残っており、いくつもの証言がそれを裏付けた。
 しかし彼らの正確な人数や容姿については、いまだに情報が錯綜している。
 犯人は謎のロボット、人質は最先端ロボット工学関係者、対応するのは公式・非公式問わず当代最高峰のロボットたち。真相はどうあれ、アイロニーだった。

 *  *  *

 真冬のくせに、昼前の陽はじりじりと熱いように感じられた。
 目の前のビルは不気味に静まり返っている。犯人側からの接触は今のところ、要求や声明含め一切ない。
 人質の状況も分からない。ビル警備会社が調べたところ、人質がいると思われる連絡通路周辺の防犯カメラはみな破壊されていた。しかもそのエリアはビルの隅に引っ込んでおり、そもそも目に付きにくいのだという。
 ともあれ、警察は拡声器をビルに向けた。人質の解放条件を聞きたい、今すぐ交渉に応じてください。雷のような声が響く。
 だが、ライトナンバーズもコサックナンバーズも、そしてワイリーナンバーズも、返事に期待などしていなかった。
 それは直感だが、ほとんど確信だった。同じく武器を持つロボットとしてそう感じたのだ。その上、民間人に危害を加えた者はこちら側には皆無だったから、なおのこと確証が持てた。
 しかしそれでも、応答を願わずにはいられなかった。
 敵に回したくはなかった。何者かは分からないが洒落にならない相手だ。間違いなく。
 案の定、返事はなかった。

 *  *  *

 きっかり正午、国家安全省は突入を決め、現場に直通で指示した。

 *  *  *

「たった今指示が入りました。突入だそうです」
 警官がそう告げ、ナンバーズの間に言い知れぬ緊張がよぎった。
 突入組はスネークマン(索敵)、ガッツマン(人質保護)、ストーンマン(人質保護)、ブライトマン(広域攻撃)、トードマン(広域攻撃)、ファイヤーマン(遊撃)。裏口から侵入するため、これ以上の人数では行けない。
 建物内部の3Dマップが全員に伝送される。メンバーの現在地と目的地がリアルタイムで脳内に送られる仕組みだった。
 気をつけろよ。短い言葉を交わし、そっと社員通用門に近づく。
 スネークマンが扉を細く開け、サーチスネークを走らせた。
「……異常なしだ。行くぜ」
 一同は、扉からそっと身を滑り込ませた。

 *  *  *

 しかし、ぞっとしねえな。スネークマンは心中で舌打ちした。
 数階上の南側に二十近い反応。これは人間のものだ。そして十あまりの異なる反応。これはロボット。武器の反応はないから、いずれも人質だ。
 が、それだけだった。
 その場に間違いなくいる、肝心の戦闘用ロボットだけは感知できない。ぎりぎりまでサーチスネークを寄せて振動を捉えるか目視させるかしかなかった。
 だがそれは同時に、相手に先に感づかれる危険性をも孕んでいる。
 狭い非常階段下に一同がようやく身を潜め、スネークマンがさらに先を調べようとした時。
 あ、とブライトマンが息を呑んだ。
「どうしたッ」
 一同が見上げると、すぐ頭上の踊り場から覗く顔と目が合った。
「…………!」
 相手はひょいと頭を引っ込めた。
「ちッ、見つかった。追うぞ」
 本隊に知らされる前に捕らえなければならない。一同はできるだけ足音を殺し、階段を駆け上った。
 前を逃げていく相手は猫を模した子供型のロボットで、怪我でもしているのか片足を引きずり引きずり、必死で逃げていく。が、そのスピードは速くなく、時折振り返る顔が恐怖にこわばっている。
 追いかける一同と、その差が徐々に縮まっていき……
「こいつめ」
 ガッツマンがその足を引っ掴もうと腕を延ばした、その瞬間。
 相手がぱっと大きく跳ね、五段ほどを飛び越して次の踊り場に上がった。
 同時にガッツマンが足をかけた段が抜け、他の一同が乗っている部分もろとも階下に墜落した。

 *  *  *

 うわああああっ、聞き覚えのある悲鳴がビル内から響き、何かの落ちる大音響が続いた。
 ビルの外に戦慄が走った。
 まさか。

 *  *  *

 いやというほど身体を打ちつけ、それでもファイヤーマンが起き上がると、頭上に影が動いた。
 ぞっとして見上げた真上、二階の扉に人の姿。その長い髪。
 凍てつくような目。
 まずい。
 思う間もなく、その横の壁がこちら側に外れ、落ちかかってきた。
「逃げろ」
 叫んで身をかわした途端、壁が降ってきた。慌てて腕を挙げたストーンマンがちらりと視界に入った。
 轟音。
 同時に激痛。下敷きは免れたが、左足が挟まれている。なすすべなく上に目を走らせた彼は、壁のそっくり抜けた二階部分にいくつもの人影を見た。
 途端、そこから無数の石つぶて。わあっと頭を抱えたが、それらは容赦なく彼と、難を逃れたほかのロボットたちの頭上に降り注ぐ。がしゃんと音、悲鳴。ブライトマンの電球が粉々に砕けた。
 次いで大きな影……牛のような姿のロボットが、別の壁を外すのが見えた。
 くそ。あのチビ助、ハメたな。
 その壁が頭上をふさぐ瞬間、彼はようやく悟った。

 *  *  *

 ほうほうの体でビルの外に出たのはスネークマン一人だった。
「スネーク! 他の連中は」
「……やられた。全員、壁の下敷きだ」
「下敷き!?」
「死んじゃいねえ。死んじゃいねえがすぐには助けられねえ。……連中、読んでやがった」
 スネークマンは歯噛みした。
「見張りのチビに誘導されてあのザマよ。連係の取れた野郎どもだ、俺たちみてえな寄せ集めじゃ話にならねえ」
「くそっ、こうなりゃ数で押すしかないか。この人数なら一人一人引き離せば」
 口を開いたエアーマンにスネークマンは怒鳴った。
「バカ野郎、そんな甘い奴らじゃねえよ」
「しかし」
「なめて掛かるんじゃねえって言ってんだ、俺たちを殺そうとしやがったんだぞ! ストーンとガッツマンがいなきゃ死んでた!」
 その言葉は、一同を重く打ちのめした。
 戦う相手への殺意。それまで彼らが知っているどんな戦いにも、それはあったためしがなかった。あっていいはずはなかった。
 が、その常識はもはや通じない。そういう相手なのだ。
 第一回戦はこちらの完敗だった。
 畜生。
 誰かが低くうめいた。その呪詛はどす黒く、全員に伝染していくようだった。
 唐突に、その空気を引き裂くような破裂音が響いた。
「銃声だッ」
 誰かが叫び、一同は色めきたって立ち上がった。
 わあっと大勢の悲鳴。見ると、ビルの正面玄関から何人もの人が駆け出してくるのが目に飛び込んだ。
 みな足をもつらせ、転びそうになりながら必死に駆けてくる。
 泡を食った警官隊が走っていく。
 待ってくれ、人質だ! その騒ぎの中から、叫ぶ声がした。
「人質?」
 人質となっていた人々が解放されたというのか。
 呆然と立ちすくんだのは一時で、すぐに全員がそちらに走った。

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