ワイリーマシンはまもなく洋上へ出る。
今頃、軍は必死でこのマシンを探しているだろうが、まあこのステルスがあれば見つかるまい。
――ま、とっさに考えたにしては上出来かの。データも回収できたし。
ワイリーは肩を叩きながら椅子に座った。
あの時使ったのは、データを渡しながら、渡さない方法だった。
十年分の紙データは膨大な量に上るが、まずそれをロボットたち全員で手分けして記憶したのだ。
期間ごとに担当を決め、最初から最後まで全ページを「見る」ことによって、脳内に画像で保存するというやり方だった。
そして、保存の終わったページは全て、フッター部を切り落として焼き捨てた。
そこに書かれていたのは、データのタイトル、ページ番号、採取年月日。
さらに駄目押しで、ファイル背表紙の日付と通し番号をはがし、ついでにファイルごとに全ページをシャッフルしてある。
つまり軍の手元には、タイトル・採取日不明かつ順不同の紙媒体が大量に残ったわけである。
見る者が見れば衛星のデータであることは辛うじて分かるだろうが、「どの」衛星か、「どの」順番かを特定するには、気の遠くなるような照合作業が要るはずだった。
中身が残っていながら屑と化した紙データをつかまされた向こうはかんかんだろうが、知ったことではない。
……これで、弔い合戦は果たせたかの。
ワイリーは大きく息を吐いた。
「毛布をお使いになりますか」
声をかけられ、ワイリーは顔を上げた。ダイナマンたち三人がいた。
「お、すまんの。もらおうかな」
微笑して、ワイリーは手を伸ばし、毛布を受け取った。
「長いこと、すまなかったの」
「……いいえ」
と、誰かの話し声がした。なんとなく耳を澄ませたが、なぜか聞き取れない。
英語でも日本語でもないようだった。
……ああ、ジュピターか。
日本の基地との定時通信を、彼はもといた星の言葉で行っているのだった。
そういえば、今日の通信担当は確かネプチューンだったか。
「な、だから、言葉なんて関係ないんだよ」
それを指しながら、トーチマンにマグネットマンが話すのが聞こえる。
「英語でも何でも、やりやすいようにやればいいんだ」
その横では他のロボットたちが、脳内のデータをつき合わせているらしかった。
いい情報だ、これだけあればどんな軍事衛星だって怖くないな。
メタルマンが感心したようにいい、ビットマンが胸を張った。
ともすれば自分が生み出し、引き受け、全て面倒を見ていたような気になるけれど、何のことはない、息子たちはみな自分で悩んで、自分で歩いているじゃないか。
それをワイリーはただ誇らしく、ありがたいと思った。
窓の雨は小雨へと変わり、日の出を待って薄明るい。
(了)
意外に重たい話になってびっくり。
題名の通り、最初はもっとアホっぽくなる予定だったのに。
ともあれ、四苦八苦のワイリー父さんと悩める子供たちです。
WilyがWileyになってるとことか、一部ロボの外見がああとか、オフィシャルに従って色々つじつま合わせはしてみましたが、やっぱり破綻してるっぽい。難しいです。
でもなんかこいつら9人、他と切り離されて生きてた分兄弟仲いいと思うんですよ。その辺ディメンションズとたぶん同じ。
自分で書いといてナンですが軍人さん危機管理能力なさ過ぎ。