嫌だな。
どう言い表せばいいんだろう。
うつむきながら揺られて、もう二時間ほど走っているところだ。顔を上げても、薄ぼんやりした灯りの下に石のようにうずくまる人々が見えるばかりだから、目は床に落としたままにする。そういう自分もきっと、同じように見えているのだろう。
言葉は、ない。屋根を叩く雨の音。鈍く規則的なレールの音。そんなものの中に、みなすっぽりと押し包まれていた。
それは彼に、まるで海にでも沈んでしまったような錯覚を起こさせた。
(……いや、そればかりじゃないな)
彼のすぐ左。
積み重ねられ、ワイヤーで固定されたいくつもの箱。彼もよく知っている、ロボット移送用のカプセルだ。
だが、妙だった。
まず、電源が入っていない。
カプセルに格納されたロボットを運ぶときは、ロボットの生命維持や内部温度調整等、細かい管理が常に要る。電源オフで運ぶなど常識外れどころか、考えられない。
そして何より、中身がわからなかった。
彼のセンサーは当代最先端の機能を誇る。壁越しに中の人やロボットを探知するなど朝飯前で、たとえ軍用カプセルと言えども中身を探るのは難しくないはずだった。が、さっきから何度スキャンをかけても、中の物体の素材はおろか形もわからないのだ。よほど強力な防護フィルターでも巻いてあるのかとも思ったが、そんな感触もない。
空っぽ、なはずはない。これを護送するよう言われたのだから。
その沈黙は、彼に言いようのない居心地の悪さを与えた。
(……嫌だな。どう言い表せばいいんだろう)
その傍らでカプセルたちはことりとも音を立てず、棺桶のように暗がりに沈殿していた。
* * *
不意に車両がゆれ、ばしんと妙な音がした。
何が起こったのか、振り返るまでにはもうわかっていた。カプセルにかけてあったワイヤーが切れたのだ。その近くにいた人をとっさに突き飛ばし、彼もその場から飛びすさる。
ついでカプセルの山の崩れる音。わあっと人声、沈黙の降りていた車内が初めて大きく動揺した。
怒号のような指示が飛び、周囲の人影が慌てて詰め寄ってくる。
いくつもの手がカプセルを起こそうとしたその時。
ごとりとカプセルが動いた。
瞬間、打たれたように全員が凍りつく。
その眼前で、電源が入っていないはずのカプセルの蓋がゆっくりと開き始める。
引きつったようなどよめきとともに人の輪が後退する。それに逆らうように前に出て、彼は使い慣れたバスターをカプセルに構えた。
「……気をつけろ、ロックマン!」
名を呼ばれ、彼はカプセルを見据えたまま小さくうなずいた。
その時、カプセルからひとつの影が立ち上がり……
それは確かに、彼を見た。